当事務所の提供する個人のお客様向けの業務の一部をご案内します。
こちらでは、刑事事件の手続についてご説明します。
1 捜査段階
- (1)当番弁護
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当番弁護は、弁護士会の制度で、弁護士が被疑者の方に1回無料で接見してアドバイス等を行うというものです。
被疑者本人またはご家族等から弁護士会に当番弁護士派遣の依頼が行われると、弁護士会から当日待機している弁護士に連絡が入り、その弁護士が接見に向かうという仕組みです。
被疑者は、刑事手続の流れや取調べに対する心構えを聞くことができ、また、その場で弁護士にその後の依頼を行うこともできます(弁護士に受任義務があるかは弁護士会によっても異なりますが、通常、弁護士は受任をするはずです)。
不当な供述調書等が作成されないためにも、取調べを受ける心構えは、一刻も早く聞いて頂くのが理想です。当番弁護出動の依頼はできるだけ早く行って頂いた方がよいです。
- (2)被疑者国選
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法律で定められる刑が一定以上の事件について(窃盗罪や傷害罪も含まれます。)、被疑者が勾留されている場合、被疑者に経済的余裕がなく私選弁護人を選任することができないときには、その被疑者は国選弁護人を付けてもらうように裁判所に請求することができます。
捜査段階から弁護人が付くことで、不当な取調べを止めさせるなど、より充実した弁護活動ができます。
もっとも、それでも対象事件が一定以上の罪に限られること(暴行罪は含まれません。)、勾留は逮捕されてから2~3日後に始まるため、その間がカバーされていないことなどの問題もあります。
特に、勾留が始まるまでの数日間はとても重要な時期で、この間に被疑者に不利益な供述調書が作られた結果、後の裁判でも不利益を受けるということが多く発生しています。
「被疑者国選の対象事件だから、勾留に切り替わって国選弁護人が付くまで待っておけばよい。」などとは思わずに、上で述べた当番弁護の出動を求めたり、下で述べる刑事扶助を使ったりして、弁護人がいない空白の時間を少しでも減らして頂きたいと思います。
- (3)刑事被疑者弁護援助
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刑事被疑者弁護援助制度は、日弁連から日本司法支援センター(法テラス)に対する委託事情で、上の被疑者国選でカバーされていない範囲の被疑者が弁護士に弁護を依頼する場合に、弁護士費用の立替えを行う,というものです。
つまり、逮捕されてから勾留に切り替わるまでの間や、被疑者国選対象事件でない事件について、弁護人を付けたいときに、その弁護士費用の立替えを行ってもらえる仕組みです。
原則としては、後日、立て替えられた弁護士費用を法テラスに返すことになりますが、経済的に余裕がない場合、多くの事件でその償還は免除されています。
上の当番弁護で接見に来た弁護士は、刑事被疑者弁護援助の説明を行わなければならないことになっており、その手続を利用して依頼をしたいという申し出があれば、基本的にその方法で受任するはずです。
できるだけ早い当番弁護と、被疑者国選または刑事被疑者弁護援助とを組み合わせて、とても重要な捜査初期に被疑者自身の権利を防御して頂きたいと思います。
- (4)取調べ(可視化)
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過去に多くの冤罪を生み出した原因は、不当な取調べです。
狭い密室で、屈強な取調官数名による長時間の取調べが何日も続けば、どんなに精神力の強い人でも、やっていないことまで「やりました。」と虚偽の自白をして楽になりたい心境になります。
しかし、一旦虚偽の自白に基づく供述調書が作られてしまえば、その後の裁判でどんなに証拠能力はないと主張しても聞いてもらえないことの方が多いのです。
このため、我々弁護士は、そのような虚偽の自白がとられないように、被疑者を力づける役割を担っています。
その方法として、もちろん頻繁な接見も有効ですが、もっと直截的な方法として、取調べの状況を全面的に録画することや弁護人が取調べに立会いを求めることも非常に有効です。
まだこれらの方法は、一部しか実現されていませんが、私たちは絶えず取調べの可視化を求めて参ります。
- (5)接見交通権
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弁護士は、警察官の立会なしに被疑者と面接することが出来ます(刑事訴訟法39条1項)。
一般の方の面会の場合、接見禁止命令が出ている場合には面会自体できませんし、そうでない場合にも、警察官立会いで話の内容は制限されますし、時間も限られています。
弁護人は、そのような制限なく被疑者と面会することができ、事件の内容について詳細な打ち合わせを行うことができます。
これによって、被疑者は自分の権利(黙秘権や署名拒絶権など)を確認することができ、今後どのように取調べに対処するかを考えることができます。
また、少なくとも弁護人とあっている間、取調べは行われませんので、心理的な緊張をほぐす時間ともなります。
このように、弁護人による接見は、被疑者に非常に有益ですので、私たちもできる限り、頻繁に接見を行うよう心がけています。
- (6)身体拘束からの解放に向けて
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逮捕・勾留された被疑者がもっとも望むことは、一刻も早い身体拘束からの解放です。
弁護人は、勾留や勾留延長に対する準抗告、勾留取消請求、勾留理由開示請求、勾留執行停止の申立て等を行いながら、できる限り早期に被疑者の身体が解放されるよう努力致します。
2 起訴~裁判
- (1)公判手続
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被疑者が起訴されてしまった場合、裁判に向けた準備が必要となります。
複雑でない自白事件の場合は、通常、起訴されてから約1か月後に第1回目の公判期日が行われ、その期日で審理を終了し、2~3週間後に判決言渡し期日となります。
否認事件や複雑な事件は、下の公判前整理手続を経る等して、起訴から判決までに数か月以上かかることもまれではありません。
- (2)公判前整理手続(期日間)
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公判前整理手続は、実際の公判期日に先立って、争点と証拠の整理を行う手続で、公判期日における審理の充実・促進のため、平成17年に導入されました。
この手続は、検察官が持っている証拠(特に被告人に有利な証拠で裁判に提出される予定がないもの)の開示を受けやすい制度となっているため、被告人にとっても相当の利益があります。
この手続には、相応の期間がかかることや、手続終了後には原則として新たな主張を行うことができない等の制限がありますが、うまく使うことで被告に有利な判決を導くことができるものと考えます。
- (3)裁判員裁判
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裁判員裁判は、一般の方を裁判員として、被告人の有罪・無罪、有罪である場合の刑の重さ、を裁判官と一緒に判断してもらう制度で、平成21年に導入されました。
一般の方が判断に加わるため、私たち弁護士もより分かりやすい言葉で被告人や事件のことを説明する必要があります。
裁判員裁判に対応するため、弁護士会その他団体では、弁護士に対する研修を頻繁に行っており、当事務所の弁護士もそのような研修会で研鑽を積んでおります。また、当事務所には、実際に裁判員裁判を担当した弁護士もおり、事務所内での経験の蓄積も行っているところです。
- (4)保釈
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上の捜査段階で被疑者の身体拘束からの早期の解放が必要であることを述べましたが、その事情は起訴後の被告人についても同様です。むしろ、起訴までに勾留された時間や公判準備を行う必要を考えれば、より身体拘束からの解放が求められるところです。
法律上、起訴後には、保釈の制度があります。
保釈は、1)裁判所の保釈決定を得て、2)保釈金を納付して、被告人の身体拘束を解く手続ですが、1)2)それぞれに難しい問題があります。
まず、1)保釈決定は、法律上、刑事訴訟法89条の事由がない場合には当然認められるものですし(権利保釈)、そうでない場合でも同法90条によって裁判所の裁量で保釈決定を行うこともできます(裁量保釈)。
しかし、実際には、「罪障隠滅の恐れがある」(同法89条4号)として権利保釈を認めず、裁量保釈も認めないケースが多々あります。罪障隠滅の「恐れ」は、具体的である必要があるはずで、捜査が終了している起訴後の段階ではもはや被告人が証拠を隠滅する具体的な危険などはないのが通常であるのに、多くの裁判所では、抽象的な危険を指摘して保釈を認めないケースが多いのです。
当事務所の弁護士が担当した事件でも、同一の事件で、5回目の保釈請求でようやく認められたことがありました。保釈は諦めないことが重要だと思います。
また、2)保釈金についても、一般に200万円前後が必要であることが多く(弁護人としてはできる限り少額になるよう裁判所と交渉はします。)、即金でこれだけのお金を準備できる被告人はそう多くありません。
保釈金については、(賛否はありますが)そのお金を貸し出す会社もあるので、状況に応じて利用することもあります。
- (5)情状弁護
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仮に、被告人が真に罪を犯した人であっても、私たち弁護人はできる限り被告人の有利な事情を裁判所に示して、被告人の刑を軽くするよう努力します。
悪いことをした人の刑を軽くしようとすることは、なかなか一般の方の理解を得にくいことかもしれません。
しかし、真に罪を犯した人であっても、必要以上に重い罰を受けることは適当ではありません。その人の状況に見合った罰を裁判所に判断してもらう必要があるのです。
通常、検察官からは被告人に不利益な事情しかでてこないため、弁護人は被告人に有利な事情を示すのです(虚偽の事実を示すことではありません。)。
裁判所は、双方から示された様々な事情から、被告人に見合った罰を判断することが可能となるわけです。
また、どんなに軽い罪であっても、それを判断する手続は、法律に従った適正なものである必要があります。私たち弁護士は、裁判が適正に行われていることを監視する役割も担っているのです。
さらに、被告人に有利な事情を作ることは、周囲にも良い影響を与えることがあります。例えば、被害者に被告人の謝罪の意を伝えることで、少しでも被害者の気持ちを和らげることができるかもしれませんし、被告人が社会に復帰した後の住むところを調整したり、適当な就業先や監督者を見つけたりすることで、被告人が再び罪を犯すことを防ぐことができるかもしれません。
このような観点から、いわゆる自白事件においても情状弁護は必要なのです。
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