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ニュース :年金方式の生命保険金に対する所得税課税処分が取り消されました
2010年07月08日
平成22年7月6日、最高裁は、遺族が年金方式で受領した生命保険金に対する所得税の課税処分を取り消しました。
同様の年金保険金を受領していた方の場合、納付済みの所得税が還付される見込みがあります。
もっとも、税務署が対象となる納税者に個別に連絡をとったり、自働的に返還したりするわけではありません。
還付を受けるためには、納税者側で更正の請求を行う必要があります。
また、還付の対象となる範囲については判決によっても自明でない部分がありますので、ご注意ください。
以下、最高裁判決及び現時点で表明されている政府方針等を簡単に御説明します。
1 最高裁判決の内容
(1)争われた課税処分の内容
生命保険金は、相続又は遺贈により取得される財産ではないものの、
実質的には相続等により取得したのと同様の経済的効果があることから、
相続税の課税対象とされています(相続税法3条1項1号)。
他方で、年金方式の生命保険金(例えば、1年に1度100万円ずつ支払う等、定期・継続的に支払われる生命保険金)は、
遺族(受取人)の所得とされ、所得税の課税対象にもされていました。
今回の裁判では、このような生命保険金を受け取っている遺族の、
1回目の保険金230万円に対する所得税の課税処分の当否が争われていました。
(2)判決の骨子
最高裁は、遺族が受領していた年金方式の生命保険金の各支給額のうち、
相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならないものというべきであると判示し、
当該部分への所得税の課税処分を取り消しました。
つまり、従前の課税当局の運用が誤っていたと最高裁が明言したのです。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=80421&hanreiKbn=01
(3)前提知識
最高裁判決の内容を把握するためには、相続税の課税方法も知っておく必要がありますので、簡単に解説いたします。
本件で問題となっていたのは、被保険者の死亡時から、1年間230万円ずつ10年間にわたり合計2300万円を支払うという、一定の期間、定期的に支払われるタイプの生命保険金でした。
このような年金方式の保険金は、将来にわたって受け取る保険金の総額が相続税の基準になります。
もっとも、額面金額(本件では2300万円)がそのまま課税評価額となるわけではありません。
相続から2年目以降に受領する保険金については、相続時の時価を計算して課税対象額と評価することになっています。
課税対象額の計算方法は相続税法に規定されていますが、
上記の例では、相続税の課税対象額は、2300万円×60%=1380万円です(相続税法24条1項)。
(4)最高裁の論理
本件では、遺族が被保険者が死亡した日を支給日として受領した230万円の保険金に対して
所得税を課すことはできないと判断されました。
最高裁の論理をまとめると、以下のとおりです。
ア 相続税法では、①当該1380万円は、相続税法22条の「時価」、すなわち当該年金受給権の相続時の現在価値に相当するもの、②受給総額2300万円と1380万円の差額(=920万円)は、1380万円を元本とした場合の運用益に合計額に相当するものとして規定している、したがって、受取人が受領する年金支給額のうち、①に該当する1380万円については、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものといえ、所得税の課税対象とならない。
イ 被相続人の死亡時(相続時)が支給の日となっている本件の230万円の保険金には運用益相当分が含まれず、すべてが相続税の課税対象である元本に相当する。
ウ したがって、当該230万円に所得税を課税することはできない。
2 今後について(留意点等)
当該最高裁判決を受け、納付済みの所得税の還付を求めていきたいと考える方も多いでしょう。
ただ、以下の点もご留意ください。
(1)還付を受けるには、更正の請求をする必要があること
税務署が対象納税者に自働的に返金してくれるわけではありません。
還付を受けるためには、納税者の方が、更正請求を行う必要があります。
税金の還付請求権には時効があります。
消滅時効は5年間で(国税通則法74条1項)、時効の起算日は、該当する所得の発生した暦年の翌年1月1日であるというのが、国税庁の見解です(例えば、平成16年分の所得税の還付請求権の時効は、平成17年1月1日に起算し、平成21年12月31日で時効期間が満了する。)。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shotoku/07/14.htm
本件で問題となったものと同種のものについては、時効消滅分も含めて還付するというのが平成22年7月7日時点の国税庁の方針ではありますが、変更される可能性がないとはいえませんので、請求できる方はできうる限り早めに更正の請求を検討されたほうがリスクが低いと言えるでしょう。
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h22/9291/index.htm
(2)年金形式の生命保険金に賦課された所得税の全てが還付の対象になるわけでないこと
過去に納付された、年金形式の生命保険金の所得税の全てが還付の対象になるわけではないこともご留意ください。
最高裁判決の論理に基づくと、「運用益」相当分への所得税課税は相続税との二重課税に当たらず、
適法に課税できると解されます。
学説においても、このような取扱が支持されています(金子宏『租税法』470頁(平成21年、第14版、弘文堂))。
国税庁においても、本判決を受けて、課税の対象とならない部分の算定方法などの検討を進めようとしている段階で、具体的な算定方法はまだ明らかにされていません。
同様の年金保険金を受領していた方の場合、納付済みの所得税が還付される見込みがあります。
もっとも、税務署が対象となる納税者に個別に連絡をとったり、自働的に返還したりするわけではありません。
還付を受けるためには、納税者側で更正の請求を行う必要があります。
また、還付の対象となる範囲については判決によっても自明でない部分がありますので、ご注意ください。
以下、最高裁判決及び現時点で表明されている政府方針等を簡単に御説明します。
1 最高裁判決の内容
(1)争われた課税処分の内容
生命保険金は、相続又は遺贈により取得される財産ではないものの、
実質的には相続等により取得したのと同様の経済的効果があることから、
相続税の課税対象とされています(相続税法3条1項1号)。
他方で、年金方式の生命保険金(例えば、1年に1度100万円ずつ支払う等、定期・継続的に支払われる生命保険金)は、
遺族(受取人)の所得とされ、所得税の課税対象にもされていました。
今回の裁判では、このような生命保険金を受け取っている遺族の、
1回目の保険金230万円に対する所得税の課税処分の当否が争われていました。
(2)判決の骨子
最高裁は、遺族が受領していた年金方式の生命保険金の各支給額のうち、
相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならないものというべきであると判示し、
当該部分への所得税の課税処分を取り消しました。
つまり、従前の課税当局の運用が誤っていたと最高裁が明言したのです。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=80421&hanreiKbn=01
(3)前提知識
最高裁判決の内容を把握するためには、相続税の課税方法も知っておく必要がありますので、簡単に解説いたします。
本件で問題となっていたのは、被保険者の死亡時から、1年間230万円ずつ10年間にわたり合計2300万円を支払うという、一定の期間、定期的に支払われるタイプの生命保険金でした。
このような年金方式の保険金は、将来にわたって受け取る保険金の総額が相続税の基準になります。
もっとも、額面金額(本件では2300万円)がそのまま課税評価額となるわけではありません。
相続から2年目以降に受領する保険金については、相続時の時価を計算して課税対象額と評価することになっています。
課税対象額の計算方法は相続税法に規定されていますが、
上記の例では、相続税の課税対象額は、2300万円×60%=1380万円です(相続税法24条1項)。
(4)最高裁の論理
本件では、遺族が被保険者が死亡した日を支給日として受領した230万円の保険金に対して
所得税を課すことはできないと判断されました。
最高裁の論理をまとめると、以下のとおりです。
ア 相続税法では、①当該1380万円は、相続税法22条の「時価」、すなわち当該年金受給権の相続時の現在価値に相当するもの、②受給総額2300万円と1380万円の差額(=920万円)は、1380万円を元本とした場合の運用益に合計額に相当するものとして規定している、したがって、受取人が受領する年金支給額のうち、①に該当する1380万円については、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものといえ、所得税の課税対象とならない。
イ 被相続人の死亡時(相続時)が支給の日となっている本件の230万円の保険金には運用益相当分が含まれず、すべてが相続税の課税対象である元本に相当する。
ウ したがって、当該230万円に所得税を課税することはできない。
2 今後について(留意点等)
当該最高裁判決を受け、納付済みの所得税の還付を求めていきたいと考える方も多いでしょう。
ただ、以下の点もご留意ください。
(1)還付を受けるには、更正の請求をする必要があること
税務署が対象納税者に自働的に返金してくれるわけではありません。
還付を受けるためには、納税者の方が、更正請求を行う必要があります。
税金の還付請求権には時効があります。
消滅時効は5年間で(国税通則法74条1項)、時効の起算日は、該当する所得の発生した暦年の翌年1月1日であるというのが、国税庁の見解です(例えば、平成16年分の所得税の還付請求権の時効は、平成17年1月1日に起算し、平成21年12月31日で時効期間が満了する。)。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shotoku/07/14.htm
本件で問題となったものと同種のものについては、時効消滅分も含めて還付するというのが平成22年7月7日時点の国税庁の方針ではありますが、変更される可能性がないとはいえませんので、請求できる方はできうる限り早めに更正の請求を検討されたほうがリスクが低いと言えるでしょう。
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h22/9291/index.htm
(2)年金形式の生命保険金に賦課された所得税の全てが還付の対象になるわけでないこと
過去に納付された、年金形式の生命保険金の所得税の全てが還付の対象になるわけではないこともご留意ください。
最高裁判決の論理に基づくと、「運用益」相当分への所得税課税は相続税との二重課税に当たらず、
適法に課税できると解されます。
学説においても、このような取扱が支持されています(金子宏『租税法』470頁(平成21年、第14版、弘文堂))。
国税庁においても、本判決を受けて、課税の対象とならない部分の算定方法などの検討を進めようとしている段階で、具体的な算定方法はまだ明らかにされていません。